「白昼夢」「指輪」(江戸川乱歩)

愚作どころかなかなか味わいのある二作品

「白昼夢」「指輪」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第1巻」)
 光文社文庫

ある大通りを歩いていた「私」は、
街角で行き交う人々に
何かを訴えている男を目撃する。
男は真剣な表情で
必死に弁舌しているが
聴衆はみな大笑いして
聞き流していた。
男の話を聴いていた「私」は、
やがて言いしれぬ
恐怖を感じる…。
「白昼夢」

列車内で男Aが
男Bを問い詰める。
「先日の車内では
うまく逃げおおせたようだが、
夫人から摺った指輪は
一体どうやって
持ち出したのだ」と。
BはAが車窓から
とっさに投げ捨てた蜜柑の中に、
指輪が仕込まれていたと
考えていた…。
「指輪」

後に作者・乱歩自身が
「愚作」と切り捨てた小品二篇です。
しかし、愚作どころか
なかなか味わいのある作品です。

「白昼夢」の謎の男は、
その通りに面した薬屋の主人でした。
愛しい妻が
他の男に気移りする前に殺害し、
美しいまま屍蝋にして
自分の店先に飾り立てたと
わめき散らしている主人の話を、
聴衆は誰も本気にせず、
喜劇か何かのように捉えています。
しかし「私」がその店先の
ガラスケースを見ると、
その人体模型の女の皮膚には
うぶ毛がしっかりと生えているのが
見えた、というものです。

死体を店先に飾り立てる手法は、
後の作品(確か「妖虫」だったか)に
みられます。
思いついた猟奇的なアイディアを、
とりあえず使って
作品を作ってみたのかもしれません。
が、確かに「私」同様、
読み手も背筋に
寒気を感じざるを得ない作品です。
乱歩の猟奇性の芽を感じる作品です。

蜜柑5個を車窓から放り投げた
男Bの行為を間近で見て、
男Aはその蜜柑の中に
摺り取った指輪が
仕込まれていると考え、
Bに先駆けて蜜柑を拾いに行くのですが、
そこに指輪はなかったのです。
Aは偶然再会したBに、
その手口を問い詰めたのです。

トリックそのものは
平凡な感の否めないところですが、
AとBのやりとりだけで
物語を構成しているのが
読みどころでしょうか。

車窓から蜜柑を放り投げるというと、
芥川龍之介「蜜柑」
連想してしまいます。
「蜜柑」は大正8年発表、
本作品は大正14年発表。
乱歩はもしかしたら
芥川の「蜜柑」のプロットを借りて
パロディ化しようと
したのかもしれません。

小品といえども
捨てがたい魅力を発している二作品。
「乱歩に愚作なし」です。

(2020.6.14)

Ioannis IoannidisによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「白昼夢」(江戸川乱歩)
「指輪」(江戸川乱歩)

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